週刊が月刊に⁉️
フィッシュを応援してくださる皆さま、ご機嫌いかがでしょうか?
週刊フィッシュはすっかり月刊なりつつありますが、今月は頑張って週刊に戻すつもりです…知らんけど。
さてさて9月に入ったというのにまだくそ暑い日が続いていますが、皆さん体調は崩してませんか?
毎日暑くて汗だくで、常にプール上がりのような顔で皆さまをお迎えしてしまい申し訳ありません。
私事ではありますが、(常に私事のネタばかりですけどね)昨年の秋から谷町六丁目にある文章教室に通っています。
ここが本当に面白くて、日々『書く』ということを楽しんでいます!
それで6月に初めて小説の応募をしてみました。
高橋源一郎の『小説でもどうぞ』
https://koubo.jp/article/list/tag/40
こちらは1700字という短いもので、毎月テーマが決められています。
結果は毎月一日。
私は…まあ、佳作も引っかかりませんでした。
読んでいただく機会もありませんので、こちらで発表します。しばしお付き合いを。。。
テーマは『趣味』です。
『楽しいまどり』 小谷真喜子
アルバイト先のスーパーでベテランパート主婦の中村さんとお昼休憩が一緒になった。
その時休憩室にあったチラシの中に駅前の新築予定マンションのものが混ざっていた。
それを何気なく手に取り眺めていた。
「ああ、そのマンションねえ。場所がいいから高いけど間取りがね。イマイチなのよ」
「え?」私はどきどきした。
「それってこのキッチンのとこの動線ですか?」
私は中村さんに思わず聞いてしまった。
「よりちゃん、あんた間取り興味あんの? へぇー、若いのに。そうそう、ここさあ、キッチンの後ろにお風呂と洗面所があるんだから引き戸かなんかですぐ行けるようにしたらいいのに。廊下に一回出て洗濯物取りに行くのめんどくさいわあ」
「ですよね! 私もめちゃくちゃ思ってました」
私は自分だけの楽しみが思いがけず伝わったことに嬉しくなって、思わず声がワントーン大きくなってしまった。
「あとさあ、この壁邪魔だよね。これってガーッと引き戸で開けれるようにしたらリビングがもっと開放的になんのにさあ」
「ですです!」
私は喰い気味に言った。
「あんた、そんなに間取り興味あんなら今度おいでよ。まあ、地味ーな会だけど」
そんなことがきっかけで私は間取り好きが時々集まる会に誘われた。最初に参加した日の私の感想は中村さんが言っていた通りだった。それは恐ろしく地味な会だった。年齢も性別も職業もバラバラで、道ですれ違っても見落としてしまうくらい印象に残らない人たちの集まりだった。私も同世代の中では特に目立つところのない、人のことをどうこう言えるような立場ではないので少しほっとした。
その会は不定期に開催された。集まるメンバーはだいたい4〜5人程度。
いつも駅前の喫茶店ロイの奥のソファー席に座って静かにおしゃべりした。みなテーブルに着くなりチラシを広げ、買いもしないマンションの間取りについてあれこれ言う。
一番年配の吉田さんは奥様を三年前に亡くされてバイト先の裏の市営住宅に一人で住んでした。
多分この先マンションを買うことは絶対にないのだが、料理好きだった奥様の動きを考えながら間取りのチェックをしていた。
そんなふうにこの地味な生産性の全くないささやかな趣味を話すだけの会は行われていた。
その日、時々しか参加しない井上さんが来ていた。
この人も恐ろしく地味な人で、あまり口数も多くなくどちらというと中村さんの賑やかなおしゃべりを聞いてあげる役まわりの人だった。
年齢は多分50代くらい。
その井上さんが珍しく口を開いた。
「僕、最近ちょっと困ったことになりまして」
中村さんがつかさず「何、やっと好きな女でも出来たか?」
「いえいえ、そのようなことではなくて。実は、僕のところに遺産が入ったんです」
その場にいた全員が「えー⁉︎⁉︎」と大きな声を出してしまった。
「遠縁のおじさんは独り者で家族がいなくて。まあ僕もなんですけど。ははは」井上さんには珍しい自虐ネタで小さく笑った。
「それでマンションを見ているのですが、やっぱり高いですね…」
「で、いくら相続したの?」中村さんが聞きにくいことをさらっと聞いた。
「1,500万ほどです」
「あー、それだとなかなか買えるやつがないわねえ」
「安い中古マンションを探してリフォームするのはどうですか?」
私は思わず口を挟んだ。
「あー、それならいいかも」みんなの意見が一致した。
そこからのこのささやかな会は過去最大の盛り上がりを見せた。
井上さんのマンションは築45年の54平米に落ち着いた。
ここからが私達の会の本番!
間取りを毎週集まって相談した。
今日の議題はもちろんキッチンの動線とリビングの開放感についてだ。
了
選ばれた作品はやっぱりすごくて、私はまだまだ勉強が必要だと実感しました。
でももう三回も応募しちゃったんですけど。。
今の目標は、一年間毎月作品を提出する!です。
あと九回!送っちゃいますよ〜❣️
皆さんもぜひ、小説でもどうぞ。。
今月も『隠れ家フィッシュ』でお待ちしています。
小谷真喜子